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夜の息継ぎ

久しぶりに熱を出して寝込んでいると、朧げに霞む意識の心地がとても懐かしく感じられて、そういえば僕の二十代はこの微熱感覚の上にずっとあったのだということを思い出していた。


身体という鈍い服を着ている感覚、と言えばいいのだろうか。それは生温い海を引きずるような、あるいは身体の稜線から湧き立つ霧のような心地でもあった。それまでぴたりと伴走していたはずの身体から浮遊し、別の何者かへと重心が移ろっていくような、曖昧な様態。いっそのこと、その重りをすべて脱ぎ去ってしまえたらどんなに楽だろうと何度も念じては、ぜいぜいと鳴る肺の濁りがこの身体と意識を糊のように結びつけていた。かつて、確かにそんな身体感覚の延長に生活があった。


胸に巣食っていた、あの焦燥にも似た「濁り」の正体とは一体何だったのか。それはいつのまにか視界から流れ失せていて、その喪失の感覚だけが、身体の暗がりの奥底で微かな痕跡として残っている。

「身体の中には宇宙のように遠い場所がある」とある人が言っていた。そのせいだろうか。時々同じ宇宙を持つ人に出会うと、まるで幻肢のような心地で、それが静かに疼く気がする。










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