透明な地層

 


友人の初盆だった。京都から電車で片道三時間をかけて、彼の生まれ育った町まで行く。駅前の小さなロータリーに乳白色の軽自動車が一台停まっていて、その横にお姉さんらしき人がこちらに手を振っていた。挨拶を交わし、後部座席に乗り込むと、静かにエンジン音が鳴った。

「この辺りは一帯がみかん畑で、秋になると山も畑も橙色に色づくんです」お姉さんの声に促され、窓の外に視線をやる。だいだいいろ。あまり使わないその音を、口の中で小さく響かせてみる。そのまま、遠くの山肌をスクリーンにして、この土地で過ごしていた彼の少年時代の姿を想像した。いたるところに低木の植わった、まるで迷路のようなみかん畑のあいだをくぐり抜けて、車は走っていく。

仏壇の中には、まるで他人事のような顔をした彼の写真と、掌に収まりそうな程の小さな円筒形の骨壺が並んでいた。「四十九日はもう過ぎたんですが、まだお墓に入れるのがしのびなくって」訛りを交えながら、お父さんがゆっくりと語り出す。その少し間延びした口調や、独特の抑揚は、彼の中に流れていたリズムを思い起こさせるものがあった。

仏前には、訪れた人たちが持ってきてくれたであろうお菓子やお花が供えられ、そこから静かな光が放たれているように見えた。六畳の仏間全体が、彼を悼む気持ちで満ちているのが感じられる、今までに触れたことのない空気だった。それはかなしみだけでもなく、やさしみだけでもなく、ちょうどお盆提灯からこぼれる水色の淡い光に似ている気がした。

おりんを鳴らし、手を合わせる。細やかに空気が震えるそのひとときのあいだ、何かがこみ上げてきそうになるのを、高く澄んだ音色がさらっていく。水面を広がっていく波紋をまぶたの奥に想像しながら、この気持ちが音の波に乗って彼の元へ届くんじゃないかと思っていた。

神前や仏前に手を合わせる時、ここではないどこかを想っている。目を瞑りながら、意識の深みのなかで彼に呼びかける。心の目でぼんやりとまなざすそこは、一体どこなんだろう。

線香の煙が生まれてはたちまちに輪郭を失い、宙に消えていく。そんなものをいつまでも眺めていたかった。小さな粒子となって見えなくなってしまうその流れのなかに、彼や自分のかたちの断片があるように思えてならなかった。誰かにとっての静かな存在が、煙のように舞い上がってはこの世界を泳いでいる。この地上には、そんな細やかさが降り積もってできる透明な地層がある。顔を上げると、空の青さがさっきよりも意味に満ちた濃さとして感じられるような気がした。






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