2009.3 旅をしてる

 

 

 

帰化植物といって、もともとその土地にはなかった植物が、なんらかの手段によって持ち込まれ、新たな土地で育って根を増やしていくものがある。たとえば道端の雑草としてよく見られるハルジオンや、さらに和製のイメージのあるタンポポだって、今では西洋種の方が見つけやすくなっているという。
これらの無数の帰化植物は、人為的な持ち込みによるものが多いのだろうけど、なかには渡り鳥の糞に紛れてやってきたものもあるかもしれないし、あるいは旅行者のスーツケースや靴底にくっついて偶然やって来たものもあるかもしれない。そうやって遠い外国からめぐりめぐってこの国にやってきた道程に思いを馳せると、遥かな気持ちになる。そしてそれは僕が生まれるずっとずっと大昔から繰り返されてきた、気の遠くなるような営みの、ごくごく一部に過ぎないのだろう。


最近読み始めたある本の前書きに、こんなことが書かれていて、はっとした。

「わたしたちのからだをつくっている物質の材料はすべて星のかけらからできています。その材料の供給源は地球だけとは限りません。(中略)あなたの耳たぶ のタンパク質をつくる炭素原子の一個は、かつてどこかの星雲の一角を占めていた無数の星のかけらだったかもしれません。あなたの助骨をつくるリン原子の一 個は、わたしたちの銀河系が進化をはじめたころに誕生したものが、いくつかの星の生涯をめぐりめぐって、いまの場所を仮の宿にしているのかもしれません。」
「星のかけらはわたしたちのからだをつくる成分となって、ずっとそこにとどまっているわけではありません。入ってきた物質は役目を終えていずれ外に出ていく、いや、宇宙に還っていく。(中略)髪の毛や爪ばかりでなく、胃腸や肝臓、骨や皮膚、結合組織や血液中のヘモグロビンの材料となっている原子など、からだをつくっている1028乗個もある原子は、五年も経つと最後のひと粒まですべて入れ替わってしまいます。」

(「ナチュラルハイ」上野圭一 / ちくま文庫 )


グーグルアースで地球を俯瞰しながら、そこから一気に高度を下げて僕の住む町へと急降下していったときのようなあの目の眩む感覚、と言ったらいいだろうか。そんな映像が、これを読んだときに、ふっと後頭部のもっと上のほうから襲ってきた。そしてそれは一気に体の中へ入り込んで、めまぐるしい速度でさらに小さな単位へと突き進んでいくのだった。 後頭部から皮膚へ、皮膚から細胞へ、細胞から分子へ。そして分子から原子レベルまで降りていって特殊な顕微鏡で世界を覗いたとき、そこはもはや、自分の体でありながら自分ではないような感じがした。あまりにも計り知れない、1028乗個もある原子の宇宙。しかもそれさえも、わずか五年で入れ替わってしまうという。僕の気づかないあいだに、原子さえ旅をしてる!


そんなことをとりとめもなく考えながら、電気を消してベッドに潜ると、つかめない流星のようにひゅっと瞼の裏をよぎっていくものがあった。この大いなる旅の循環のなかで永遠に漂着することのないかもしれない、僕らの精液のことだ。ティッシュに拭われ、ゴミに出され、焼却されて塵に舞い上がっていった、無数の遺伝子のかけら。あれも、めぐりめぐって、やがて宇宙へと還っていくのだろうか。
想像もつかないほど広大ないのちの仕組みの中で、なおも確実に僕らを溶かしていく時間という消化液に浸かりながら、途方に暮れたように目をつむる。


その夜は、何億光年も離れたところにある、まだ生まれたばかりの赤ん坊のような星の夢を見た。

 

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